「能力よりももっと大事なことは信用だった」というお話です

15年ほど前に僅か3~4回しか会ったことがない方ですが、僕にとってはすごく印象的で尊敬している人がいます。

その人はあるデパートの外商をしている方でした。

清潔でさわやか。

初対面の人とでもすぐにフレンドリーに話ができ、安心を与えてくれるような人でした。

今と違って全く人と話すことが出来なかった当時の僕からすると、その方の会話力やコミニュケーション力は羨ましくて仕方がありませんでした。




とても営業力のある方だったらしく、社内での営業成績はいつもダントツのトップ。

当時は自分自身の能力にものすごい自信があったそうです。

その営業力を買われて、ある時ブライダルの新規立ち上げ事業のヘッドハンティングを受けたそうです。

「あなたの営業力で事業を軌道に乗せて欲しい」と口説かれたそうです。

「俺の能力があれば絶対うまくいく」と思って引き受けることにしたそうです。




会社を移り、新規事業の立ち上げが始まると、さっそく勢いよく営業を開始したそうです。

「いくらでも仕事が取れるだろう」と思ったそうです。

だけど実際は、全く仕事が取れなかったそうです。

いくら頑張っても、ただの一件も仕事が取れなかったそうです。

外商時代は自らの会話力・コミニュケーション力でいくらでも販売が出来たのに、ブライダルの仕事ではそれが全く通用しなかったそうです。

誰もまともに自分の話を聞こうとしてくれなかったそうです。

心が完全に折れ、自信を失ってしまったそうです。

それでも営業をしなければいけないため、心身共にボロボロになりながらも、毎日飛び込み営業を続けたそうです。

来る日も来る日もただただ打ちのめされ続けたそうです。




ある日、飛び込みではいった先で初めて一件の仕事が取れたそうです。

その瞬間、頭が真っ白になったそうです。

そして気付くとお客様の目の前にも拘らず、涙が溢れてきたそうです。

ボロボロに大泣きし、しばらく立ち上がれなかったそうです。

いきなりのことでお客様もびっくりされたようですが、事情を話すと「そうだったんですね」と理解してくださったそうです。

お客様に対して、心の底から「ありがとうございます」と思えたそうです。

たった一件の仕事を取れることがどれほど有難いことであるか気付けたそうです。




その瞬間分かったそうです。

外商時代はなぜあんなに営業成績を出し続けることが出来たのか。




それは会社に信用があったから。

会社に信用があったからお客様は自分を無条件で信用し、話を聞いてくれていたのだと。

しかし新規事業の立ち上げとなるとその会社を知っている人は誰もおらず、一切実績のない会社を信じてくれる人は誰もいません。

それどころか「お宅ほんとに信用できるの?」と懐疑的な目で見られるため、どんなに会話力に長けていたとしても最初から聞く耳を持ってもらえません。

それでは仕事は取れません。




「仕事が取れないのは会社にまだ信用が無いから」

「そして自分自身に信用が無いから」

「それなのにかつての自分は自分の能力だけで仕事がいくらでも取れると思ってた」

「ただの自惚れやんね」

「ほんと馬鹿だったわ」

「そのことに気付かせてもらった苦い経験なんだけどね」

と、そんなお話をその方から聞かせていただきました。




今でも忘れることなく僕の心に残り続けている大切なお話です。